列車
二十年かけて乗った鈍行は、とんでもない僻地に辿り着いた。そこには何もなく、褪せた荒野が広がっていた。
私は何処にきてしまったのだろうと思った。
連れ合いはおらず、両親の姿も見当たらない。独りだ。
私は、こんな何も無い土地は捨てて戻ろうと思ったが、戻る列車すらこの土地には滅多にやって来ないだろうと思われた。
私は、待ってみようと思った。少し。
この何も無い土地がなんであるかを確かめるために。
すると、荒涼とした地の向こうの灰色の海に、覆いかぶさる雲の向こうに、太陽が沈む頃、なぜこの土地には何も無いのかが分かった。海は紺碧に湛え、風は黄金色に唸り、雲は銀細工のように輝いていた。ある一時にのみ見せる本当の姿のためには、日中は何も無い方が良かったのである。
すると夜になって、星々が瞬き出すと、また静寂が起こった。明け方にはまた光が爆発することだろう。
私はセントラルに帰って何を語るであろうか。皆、自分の言ったところは素晴らしかったと言うだろう。世界一の街、穏やかな農村、個性豊かな国。しかし私は言うだろう。そこには何もなかったと。皆は私を哀れむに違いない。たった一度の人生を、何も無い土地に辿り着くために費やしたのだと。
だが私はそこに真実を見た気がするのである。良いとか悪いとか言うことを通り越した、偉大なる世界の尊厳と本当の姿とを見たのだと。