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詩や雑感を記したり、好きなものを紹介します。

列車

二十年かけて乗った鈍行は、とんでもない僻地に辿り着いた。そこには何もなく、褪せた荒野が広がっていた。

私は何処にきてしまったのだろうと思った。

連れ合いはおらず、両親の姿も見当たらない。独りだ。

私は、こんな何も無い土地は捨てて戻ろうと思ったが、戻る列車すらこの土地には滅多にやって来ないだろうと思われた。

私は、待ってみようと思った。少し。

この何も無い土地がなんであるかを確かめるために。

すると、荒涼とした地の向こうの灰色の海に、覆いかぶさる雲の向こうに、太陽が沈む頃、なぜこの土地には何も無いのかが分かった。海は紺碧に湛え、風は黄金色に唸り、雲は銀細工のように輝いていた。ある一時にのみ見せる本当の姿のためには、日中は何も無い方が良かったのである。

すると夜になって、星々が瞬き出すと、また静寂が起こった。明け方にはまた光が爆発することだろう。

私はセントラルに帰って何を語るであろうか。皆、自分の言ったところは素晴らしかったと言うだろう。世界一の街、穏やかな農村、個性豊かな国。しかし私は言うだろう。そこには何もなかったと。皆は私を哀れむに違いない。たった一度の人生を、何も無い土地に辿り着くために費やしたのだと。

だが私はそこに真実を見た気がするのである。良いとか悪いとか言うことを通り越した、偉大なる世界の尊厳と本当の姿とを見たのだと。

人でなしのためのブルース

どうしてあの時 君の肩を抱いて 

冷たい廊下 一緒に部屋まで 歩いてやれなかった

 

どうしてあの時 君の居ない事を知って

涙の一つも 流してやれなかった

 

あんなに好きと 言ったのに いざと言う時 僕は逃げた

あんなに笑ってくれたのに いざと言う時 僕は知らずに

友達とバカばかり やっていたのさ

 

大切な思い出 いつの間にか蓋をして

大人に成った 君の欠けた 人生だと知らず

 

欠けたまま 歩くしかない 僕の 人でなしの ブルース

俺ってやつ

夢を見て
上の空
石につまずき
派手に転んで
起き上がれず
誰か手を取ってくれと
思ったときもあった

自分だけは捨てられず
なり振りも構わず
不細工に立ち上がれば
実に多くの助けを得て
今がある事に気が付いた

悪い事をしてきたばかりじゃないさ
でも神さんの天秤にかけたなら
きっと俺の人生はこんなもの

偉い奴もいる
俺は下から数えたら早い方
まともな奴もいる
俺は曲がった癖がどうしても抜けない

色々試してはみたんだが
結局どれもうまくはいきやしない

良いものを捨てて
悪いものを拾って
後悔もして 時計を戻そうともしたけれど
何のことは無い 針が進むのに 追いつけなかっただけ

悪いことをしてきたばかりじゃないさ
でも神さんの天秤にかけたなら
きっと俺の人生はこんなもの

歌について

あいみょん聞いて、俺も歌書こうって思ってギターとスマホで歌作ったんだけど、全然書けなかった。やっぱりもう無いんだね。ほとばしる、しかし青い血潮が。これが無いと走り切れない。二十歳頃の頃は言葉がボロボロと溢れてたし、新しいコードもバンバン作れてたけど。だからあいみょん聞いて、いいなぁってなんのね。自分で生産出来てるうちは、他の言葉なんて必要としてなかった。だから今、懐かしくもあるんだね。

さよならムーン

ブラウィンドウをくるっと閉じて

そっと告げたよ  さよならムーン

こんな風になりたい

あんな風になりたい

そんなことを思ってた自分に

バイバイ

 

いつも夢見てた  

黒い夜空に光る月のようにと

でも今日からさよならムーン

あれはすごいな

これもすごいな

そんな風に思ってた自分に

バイバイ

黒塗りの路面を

紫の雨が反射して

信号が変わったのに

アクセルをしばらく踏めなかった夜

白い幻想に  風の抜ける乾いた音が

鼓動となって  

今まではあり得なかった世界を現象する

 

誰の夢でもないさ

暗い街を彩るネオン

誰の糧でもないさ

直走る血と汗は